STORY
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01.
結婚を決めた相手のことを、
人はどこまで知っているのか。マッチングアプリで出会った男・津山と旅行中、停車中の新幹線の車窓からSOSを出す少女に気づいて助けに走った加奈。その際、行動を共にしなかった津山と加奈は疎遠になるが、5か月後、丸の内線車内で起きた刺殺事件で津山の名が報じられる。
試し読みするCOMMENTS 読者コメント
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富士山を「無国籍的な雰囲気」とする1文に、ゾクッとした。富士山が日本の象徴なのは揺るぎないと、自分も無意識に思っていたのだなと。
(40代・男性)
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登場人物の心情を敢えて書かず、読者の想像に任せてくれたので、読後に、推察する楽しい時間を持てた。最近、登場人物の心情について夫婦で話し合った作品は、本作の他、記憶にない。
(60代・男性)
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人や物事は一面しか見ることができない中で、一人ひとりが決めたことが、未来を作っていくのだなと感じられた。
(40代・男性)
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「彼らは自然な恋愛のように、そもそも近くにいたから愛し合うようになったわけではなく、そのきっかけとなるような具体的な出来事を経験したわけでもなかった」のに、親密な関係になれるのは何でだろうと改めて感じた。
(30代・女性)
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02.
かき氷屋が満席だったという、
たったそれだけで、
生きるか死ぬかが
決まってしまうのだろうか?かき氷屋が満席のため、たまたま入ったマクドナルドで、齋藤息吹は大腸内視鏡検査の世間話を耳にする。その後、自分でも検査を受けてみた彼は、初期の大腸ガンを発見され、無事に手術を終えた。ところが、何故か息吹には、あの日、自分がかき氷を食べた記憶が残されていた。……
試し読みするCOMMENTS 読者コメント
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どちらが本当なのかという展開に、自分の足元も揺らぐ感じがして、どんどん読んでしまった!
(40代・男性)
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急に今の自分が信じられなくなった。「息吹」が描く、パラレルワールドの自分と現実の自分が入れ替わってしまう居心地の悪さは、たまに感じることがあるので自分だけじゃないんだと少し安心した。 読んだことのない不気味さで、心地よかった。
(30代・女性)
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「たまたま」という言葉にどんな意味があるのかを考えた。息吹が「たまたま」マックにいたという冒頭。そして息吹の発言を「たまたま」で片づけた絵美。これは息吹の世界なのか?ラストの絵美の世界か?どちらを見せられているのだと私も違う世界に放り出された気持ち。
(50代・女性)
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人生の分岐点はたくさんあって、過去も未来も違う選択をした人生を考えることもあるけど、病気(死)という強烈に避けたいものができた場合、人の心はこういう選択をしてしまうのかもしれない。
(40代・女性)
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03.
すべてを終わらせたいと
ナイフを手にしたその時、
あの自画像が僕を見つめていた。何人殺せば、死刑になれるのですか? 虐待された過去と共に生きる孤独な青年は、架空の新宿区役所職員に尋ねる。やがて「計画」は、彼のたった一つの生の慰めとなる。犯行を決断し、ナイフに手を延ばそうとした彼を見つめていたのは、あの日、目にしたとある画家の自画像だった。
試し読みするCOMMENTS 読者コメント
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起こった犯罪と、起こらなかった犯罪、その境界には大きな違いがないのではないか。犯罪が起こらなければそれでいいのか。
(40代・男性)
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死刑になりたいという主人公の半生が、淡々と語られていて、引き込まれる。共感しちゃいけないと思いつつ、共感する部分があるという、なんともいえない感覚があった。
(40代・男性)
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一つの大きな事故の背景として、無数の危なかった事象がある。いろいろなものが燻ぶっているのだろうと想像した。分人主義の一つの形なのだろうか。
(40代・男性)
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自分の意思は、どの程度のものなのだろう。周囲の人々との関わりにより救われているだけで、環境が変われば、何をしでかすかわからない自分がいる。謙虚でありたい。
(60代・男性)
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04.
子どもの頃にかけられた、
あの一言がなかったなら。……「ともちゃんは、やっぱり手先が器用ね。」── やさしい祖母はいつもそう言ってわたしを褒めてくれた。何事にも冷淡だった母は、その一言に何を思っていたのか。
試し読みするCOMMENTS 読者コメント
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こんなに短い話なのに、泣いてしまった。
(30代・女性)
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身近な人間からかけられた言葉によって、自分自身がそこに寄っていき、真にその資質を体得した経験は自分にもある。そんな記憶が引き出される装置のようなショートショートだった。
(40代・女性)
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宝物のような掌編!
(40代・男性)
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何度も読み返したくなる作品。相手の感情を読み取るのは容易ではない。でも逆にどうにでも解釈できる。幸せな方に解釈して生きていった方が幸せになれるかもしれないと感じた。
(50代・女性)
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05.
人から人へと感染を繰り返す
「ストレス」の連鎖。
それを断ち切った、
一人の小さな英雄の物語。羽田に降り立ったシアトル帰りの男は、駐在先から持ち帰ったストレスを、蕎麦屋の店員・亮子にぶつける。娘の子育てに悩む亮子は、深い憂鬱に見舞われながら、しつこい同窓会の誘いを無視する。その些細な行動が招く、思いがけない出来事の連鎖。
試し読みするCOMMENTS 読者コメント
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ストレスリレー…こわい…でも面白い…。ウイルスのように伝染するストレスが目に見えるようだった。ルーシーのように生きたい。
(40代・女性)
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ストレスの負の連鎖は、憎しみの感情と同じで、どこかで止めないとどんどん悪影響を与えていく。複合的な理由でストレスがたまって暴発して、だれかに当たってしまうのは、身に覚えがありすぎて…。
(40代・男性)
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ウィルスの感染のように、ストレスが人と人を介していく。実際あの時期は、コロナウィルスより先に不安が感染していた。その社会を皮肉ったコメディのように読んだ。アンカーこそ知られざる英雄だとの表現の妙も効いていたし、希望があった。
(40代・女性)
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最後の収録作、スッと空に抜けるような空気感がある文章が、それまでの抑圧された雰囲気のあるこの作品、そして短篇集全体の締めくくりとして、心地よかった。
(40代・男性)
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COMMENT
「#短篇集富士山」タグでのご感想、
お待ちしております!
「たられば」を考えることは後ろ向きな思考だと思っていたが、読後は「前を向きたくなる」短篇集。
(50代・女性)
界コロナ禍で過ごした数年や格差社会の息苦しさが迫ってきた。自分で意思決定したと思うことも、自分から発露したと思う感情も、すべて他者や世間から引き起こされている。
(40代・女性)
5篇とも現代が舞台で、コロナ、無差別殺傷事件、DVといった出来事や、癌やストレスといった不安など、私たちが共通して経験し、見聞きしてきたことが背景にあった。正解がなく予測可能性が低い世界で、意識的に、または無意識的に、状況の中で何かを選択し、登場人物たちがその結果について自問するなかで、読者である自分も色々考えさせられた。
現代に生きる人たちに読んでもらいたい、読んだ人と話してみたい本だと思った。
(40代・男性)