作品
第1期(ロマン主義三部作)
14歳で三島由紀夫の『金閣寺』に衝撃を受け、文学の読者となった平野は、17歳で最初の小説を書いて以来、デビューするまでに計3点の習作を書いている(いずれも未発表)。
東西冷戦の終結とバブル経済の崩壊によって、日本社会そのものが「自分探し」を開始した時代に、平野文学は懐胎した。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件と、世紀末的な崩壊感覚が蔓延する中、忽然として、そのデビュー作『日蝕』が発表された。
1『日蝕』
1998/10/15
2『一月物語』
1999/04/15
3『葬送』
2002/08/30
第2期(短篇・実験期)
初期三部作後、現代を舞台とする小説を書くことは、デビュー時からの計画だったが、『葬送』執筆中に経験した9.11アメリカ同時多発テロとインターネットの拡充は、作者にその「新しい世界」を描くための方法を巡って、数年に亘る試行錯誤を課すこととなった。
豊富な実験性の故に「難解」とも評されてきた第2期の短編群は、自由なアイディアと先見性によって、第3期以降、作者を真に21世紀文学へと突破させることとなる。
4『高瀬川』
2003/03/28
5『滴り落ちる時計たちの波紋』
2004/06/29
6『顔のない裸体たち』
2006/03/29
7『あなたが、いなかった、あなた』
2007/01/30
第3期(前期分人主義)
第2期の多種多様な試みを経て、平野文学は、いよいよ「分人主義」という独自の思想を展開する充実した第3期を迎える。
サイバースペースの出現とアメリカ同時多発テロによって幕を開けた00年代。新自由主義が猛威を振るい、格差社会の到来が実感される一方で、テクノロジーは凄まじい勢いで発展し、世界観、人間観は根本的な更新を迫られる。
重苦しい停滞感を伴いつつ激変する世界で、新しい人間像を提示したこれら4作の長篇小説により、平野は現代の小説家として、文壇の内外からその存在を再認識されることとなる。
8『決壊』
2008/06/25
9『ドーン』
2009/07/10
10『かたちだけの愛』
2010/12/10
11『空白を満たしなさい』
2012/10/26
第4期(後期分人主義)
第3期に提唱された分人主義は、新書『私とは何か~「個人」から「分人」へ』にまとめられ、以後、平野の基本的な人間観となる。10年代に突入し、グローバリズムの更なる発展と国内外の排外的ナショナリズムの高揚を背景に、分人主義は、主体の内的な分析から、環境との相互作用の分析により比重を移してゆく。物語には、運命論的な色彩が濃くなり、プロットが明快になる一方、事象や関係性はより緻密に重層化した。それは蔓延する「自己責任論」への批判でもある。『マチネの終わりに』、『ある男』がベストセラーとなり、映画化され、『日蝕』以来の平野のイメージも更新された。
12『透明な迷宮』
2014/06/30
13『マチネの終わりに』
2016/04/08
14『ある男』
2018/09/28
15『本心』
2021/05/26