作品
3『葬送』
発売日: 2002/08/30
ショパン、ドラクロワという二人の天才とその時代を描ききった絢爛たる大作。
3年半の歳月を費やして執筆された第3作目は、19世紀半ばのフランスを舞台にした2500枚に及ぶ大作。七月王政期を象徴する音楽家ショパンと、王政復古期から第二帝政期にかけて活躍した画家ドラクロワとの友情を中心に、二月革命前後のブルジョワジーの精神史を、綿密な取材と時代考証に基づき洞察した。繊細な心理描写と華麗な芸術表現、深い思想性を実現した格調高い文体は、文学ファン以外にも多くの読者を獲得した。ポストモダンの時代に於ける、作者自らによる「近代」の考察でもあった。
<第一部>
ショパンとサンドとの9年間に亘る愛の日々は、破局の危機に瀕していた。第一部では、その原因となったサンドの二人の連れ子を巡る対立が綿密に描かれる一方、ブルジョワ社会の寵児としての天才音楽家の実像が、陰翳豊かに綴られてゆく。
その年長の親友ドラクロワは、新古典派中心の画壇からは依然として冷遇されつつも、色彩豊かで躍動的な独自の絵画世界を孤独に追求していた。
七月王政の爛熟期を生きる二人の芸術家の愛と苦悩、そして、創造。第一部を締めくくるドラクロワの下院図書館の天井画の描写は壮麗。
<第二部>
サンドとの破局後、失意のショパンは、再起を期してパリで6年ぶりのリサイタルを行う。しかし、直後に二月革命が勃発し、病身の彼はイギリス各地を転々とすることとなる。他方、下院図書館天井画の完成と革命とで虚脱状態にあったドラクロワは、創作意欲の回復のためにノルマンディーへと出立するが、旅先でショパンの訃報に接する。……
激動の時代に、政治に翻弄され、愛を見失いながらも、美を創造し続けた二人の対照的な生の軌跡が、圧倒的な感動に結実する! ショパンの伝説のコンサート・シーンは、全音楽ファン必読。
初出
『新潮』2000年10月号・2001年4月号