発売日: 2006/05/02
『葬送』刊行後、平野はその作風を一変させ、読者を驚かせた。表題作は、私小説的な設定で若い男女の一夜をリリカルに描写し、性をコミュニケーションの過程に繊細に位置づける。記憶のない父の死を、比喩化された言葉によって反復的に再構成してゆく「追憶」。存在の孤独が、幻視的な光景と共に鮮烈に表現された「清水」。「氷塊」は、母を失った少年と不倫をする女との儚い誤解を、上下二段に分割された斬新な手法で描く。作者の多才と叙情性が強く印象づけられた短編集。